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2024.3.26

OSRIN氏による映像制作特別講義「GAME CHANGE」講評会を開催

OSRIN氏による映像制作特別講義「GAME CHANGE」講評会を開催  今年度、デザイン領域では特別客員教授に映像作家・アートディレクターのOSRIN氏を迎え、「GAME CHANGE」と題して全4回の特別講義を実施しました。OSRIN氏は、King GnuのMV「白日」をはじめ、米津玄師、Mr.ChildrenのMV、数々のCMを手がけるクリエイター。そのOSRIN氏から、直接、学ぶことのできる貴重な機会であり、コースを超えて映像制作に関心のある学生が講義に参加しました。  4回の講義は、オンラインを中心に行われました。1回目の講義は2023年7月、この講義の主旨と制作する映像についての説明がありました。まず、タイトルは「GAME CHANGE」とし、自身も創作することと他者と協働することで変わってきたと説明し、この講義での体験が人生を変えるきっかけになればといいます。加えて、制作する映像について要件を説明しました。1つ目は「見たことのないもの」。見たことないものは、誰が見たいものなのか、見いたことないものは見たいものでなければいけないこと、と考えに含みを持たせます。2つ目は「グループを作って制作すること」。どうしても個人でやりたいという希望があればそれでもいいとするものの、基本的にはグループで協働することを望み、また学年も入り交じったグループであって欲しいと説明します。実際に社会で働くときは年齢やキャリアに関係なく、多くの人とかかわりながら仕事を進めます。同じように異なった学年でグループを組むよう指示がありました。3つ目は「企画書を制作すること」。すべての作品は企画書からはじまり、企画書によって予算が決まります。企画書は人を説得するものであり思考のプロセスでもあるといい、企画書なしで良い仕事はできないと説明。企画書作りを課題としました。1回目の講義では、このあとOSRIN氏が書いた企画書を公開し、企画書の要点を説明しました。また、映像を専攻していない学生のために映像フォーマットについて説明し、最終的に2分以下の映像を制作するよう課題が出されました。  2回目、3回目の講義は、学生からの企画書に対して添削するような形で行われました。感想とともに企画書の面白い部分を膨らませるようアイデアが書き込まれ、ブラッシュアップされていきました。企画書は、コンセプトとどのようなものを作りたいのかを説明する必要があります。また、制作する作品のイメージを伝えるムードボードも重要です。「企画書は自分のやりたいことを伝え、人を口説かなければいけないもの」とし、伝え方は千差万別、良い方法は企画によっても、また、人によっても異なるものと説明し、よく考えて作って欲しいと企画書の重要さを唱えました。たしかにOSRIN氏の企画書はユニークで、決まったフォーマットがなく、それぞれに見た目も構成も異なります。また、企画書自体に創作的な部分が盛り込まれていることも特徴的です。「自分が面白いと思うこと」をしっかり書いて欲しいと学生に伝えました。  そして、いよいよ最終の講義を2024年3月1日、OSRIN氏をお招きしB棟大講義室にて制作された映像をスクリーンで映写し、講評会を行いました。制作された映像は5本、Aチームは明坂悠叶さんの企画を基にしたアニメーション「寝つきが悪い」、Bチームは平松篤音さんの企画で「時間屋」、和田夏希さんの個人作、歪み興行の巡業ツアーを追った「どうしたいのかどうするのか全部自分」、Cチームは鈴木美砂さんの企画「ただ、漂う、ヒト」、Dは二人チーム、須賀さんと梛野さんの企画で「airy」。それぞれに作品を楽しみながらの講評会となりました。  OSRIN氏は作品の出来映えを讃え、面白い点をコメントしていきます。同時に、使ったほうが良いツールや制作上注意すべき点などのアドバイスも加えます。講評で印象的だったのは、共同作業による軋轢の指摘すること。共同で制作する限り100%自分の思い通りにはできません。気に入らない部分を指摘し合い、しっかりとディスカッションすることが実際の仕事では不可欠です。そうして作品が良くなるわけですが、チームに遠慮があると自分の考えを伝えることはできず譲ってしまいます。そうした不満な点を残したままでは、納得できる作品は生まれません。そうした対立を説明し、そのことを実体験することがこの講座の目的のひとつでもあり、そのことを糧にしていって欲しいと伝えました。  総評として「どの作品もとても面白かったです。単位を取るのに必死だった自分の学生生活とくらべると、自由参加で手間のかかる映像の制作をするだけでも本当に凄いと思います。自分で活動する、こうしたことが自分にはありませんでしたが、社会に出てからとても大切なことだと気付きました。それをぜひ学生時代に体験して欲しかったです。楽しいことを仕事にする、これは難しいことに思えますが、楽しいと感じることができればとてもシンプルなことです。自分の道を信じて、ぜひ挑戦して欲しいと思います」と学生たちを応援し、講義は終了となりました。

2024.3.6

名芸卒業生トークイベント「私の出発点~そういえば、原点(ルーツ)は、名芸だよね」

名芸卒業生トークイベント「私の出発点~そういえば、原点(ルーツ)は、名芸だよね」  2023年度卒業制作展記念講演として、2024年2月23日(金)に、本学卒業生の田中里奈さん(アーティスト、2012年 洋画2コース卒業、非常勤講師)、伊集院一徹さん(南伊豆新聞・南伊豆くらし図鑑 編集長/イラストレーター 2011年 ライフスタイルブロックデザインマネージメントコース卒業 )、佐藤ねじさん(プランナー/アートディレクター 2004年 デザイン造形実験コース卒業)の三氏による、「名芸卒業生トークイベント 私の出発点~そういえば原点(ルーツ)は、名芸だよね」を行いました。  ファシリテーターをスペースデザインコース 駒井貞治教授、コミュニケーションアートコース 松岡徹教授、現代アートコース 吉田有里准教授が務め、ユーモアを交えつつ和やかな雰囲気のトークショーとなりました。はじめに、現在どんなことをやっているかそれぞれのプロフィールの紹介、その後、4つの質問に答える形で進められました。  田中里奈さんは、これまでに制作した作品を紹介しながら作品のモチーフとなっているお寺など作品の背景となっている考え方、記憶に頼って制作していること、遠近法や配色など複数の表現技法を混在させている現在の創作について紹介してしていただきました。  伊集院一徹さんは、学生時代に芸祭実行委員長を務めたことから話を始め、就職したものの仕事内容と自分のズレを感じつつ、南伊豆で地方創生事業に関わり移住、起業して編集者、イラストレーターとして地域メディアを立ち上げたことを説明。コロナ禍で仕事がなくなったときにそれまでの経験を漫画にするなど、さまざまな働き方をしているといいます。  佐藤ねじさんからは、プランナーとしてやってきた仕事として、一晩かかって人狼ゲームをするホテルの宿泊プラン、子供服の企業と協力して親が助かる子供服の「アルトタスカル」、赤ちゃんが一緒にいないと遊べないゲームなど、自由でユニークな発想から生まれている数々の仕事を紹介していただきました。  自己紹介のあと、Q1.大学ではどんな学生だった? Q2.就職とか、将来どうなりたいと思っていた? Q3.卒業制作の思い出は? Q4.学生へのメッセージ、の4つの問いに答える形でトークは進められました。  田中里奈さんからは「学生時代、絵で悩んでいると吉本作次先生が、直接話すのではなく、刺激になりそうな画集をアトリエの隅に積んで置いてくれるんです。私がいないうちに、小人が出てきてやってくれたみたいに積んで置いてくれて、自分の作品に取り入れていったというのが、すごく印象に残っています」。  伊集院一徹さんは「ライフスタイルの萩原先生はとても怖かった(笑)。課題なんかも、できてるのか? ハイ!できてます、と答えてその日に徹夜したりだとか。そういうやりとりを重ねた学生時代でしたね」。  佐藤ねじさんは「僕は、今でいう先端メディアかな、プログラミングとか映像をやっていました、津田先生ですね。劇団と二足の草鞋だったんで、課題ばっかりでもなくそれほど怒られることもなく、メディアデザインは良いコースでしたよ(笑)」と笑わせました。  会場には、洋画コースの吉本作次教授、 ライフスタイルデザインコース 萩原周教授、先端メディア表現コース 津田佳紀教授の姿があり、「おかしいな……(笑)」(萩原教授)といった声が漏れる一幕もありましたが、それぞれの恩師との温かな交流も会場を和ませました。  「学生時代から作家になるつもりでいたので就職活動しなかった」(田中里奈さん)、「本当にわからないという感じ。5年前でも、自分がゲストハウスをやっているとか、まったく思ってなかった」(伊集院一徹さん)、「宣伝会議の本を開いて、ここに載っている会社なら大丈夫みたいな感じで入って、ぜんぜん面白くなくて。学生時代に面白かったことでぴったりの職業ってなかなかない。自分も20代は迂回した感じです」(佐藤ねじさん)と人それぞれに惑いながらも、自分の学んできた基本に立ち返るようにして今につながっているといえます。  学生時代にやっておいたほうが良いことについては「ブライトンに留学して、海外の美術館を見てきたことは本当によい経験」(田中里奈さん)、「気になることがあったら行く、そこで一次情報、リアルな情報をとることですね。そこで出会う人、どこで繋がるかわからない」(伊集院一徹さん)、「定年が60歳だとすると40年あるじゃないですか、40年後のこと考えると正解なんか絶対にわからない、正直AIとかでめちゃくちゃ変わる。何が武器になるかわからない。でも人間であることは変わらないので、基本的なことが大事では」(佐藤ねじさん)と、誰もが経験したことや人との出会いを大切にしているといいます。  駒井教授は「名芸のポテンシャルをあらためて感じました。皆の情熱みたいなものもすごく感じます。先輩後輩のつながりなどさらに強くしていくことも、今後も大事にしていって欲しいと思います」と締めくくりました。

2023.12.12

サウンドメディア・コンポジションコース、深田晃氏、峯岸良行氏による公開講座「3D Audio Workshop 2023」を開催

サウンドメディア・コンポジションコース、深田晃氏、峯岸良行氏による公開講座「3D Audio Workshop 2023」を開催  サウンドメディア・コンポジションコースでは、2023年12月2日(土)西キャンパス2号館大アンサンブル室にて、非常勤講師 深田晃氏、峯岸良行氏による公開講座「3D AudioWorkshop 2023」を開催しました。  これまで、映画作品や劇場で採用されていた立体音響技術が発達し、近年では、Apple Music、Amazon Musicなどではドルビーアトモス、また、Amazon Musicでは、360Reality Audioフォーマットの3D Audio配信が始まっています。今回の公開講座では、BENNIE Kなどの作曲、プロデュース、Little Glee Monsterなどミックスエンジニアとして多くのアーティストの作品に携わり、多くの3D Audio作品の制作を行ってきた峯岸良行氏、ドラマ、ドキュメンタリー、映画のサウンドトラックや番組テーマ音楽、N響やサイトウキネンオーケストラなどのレコーディングに携わり、独自サラウンド収録方法である「Fukada Tree」の考案者として広く知られる深田晃氏といった、3D Audioの第一線で活躍する両氏に制作のノウハウを具体的に講義していただきました。また、学生が制作した3D Audio作品を試聴し、今後のオーディオ表現について体験して考える、盛りだくさんの内容となりました。  会場となった大アンサンブル室には、株式会社ジェネレックジャパン(スピーカー)、タックシステム株式会社(モニターコントローラー)、アイシン高丘株式会社(スピーカースタンド)にご協力いただき、ドルビーアトモス7.1.4のリスニング環境を構築。3D Audioを60人程度の人数で同時に体験できるように準備しました。  講義の前半は、峯岸良行氏によるドルビーアトモスのポップミュージックについてのワークフローが紹介されました。近年では、ドルビーアトモスをはじめとした立体音響については、「3D Audio」「Spatial Audio」などさまざま呼び名で使われていますが、いずれも没入感の強いオーディオを意味するもので、総称して「Immersive Audio=イマーシブ オーディオ」と呼ばれるようになってきました。その中でもApple Music、Amazon Musicではドルビーアトモスを採用し配信も行われています。今回のワークフローでは、ステムミックスファイルの音声をApple Musicで配信可能なドルビーアトモスのフォーマットにミックスする作業を実演して見せていただきました。ツールの設定に始まり、ステムミックスから位相差やバンドパスフィルターを用い複数の信号に分解しそれらを3D上に配置していくテクニックやミックスの手法と、作業の手順を追って実演いただきました。  深田氏からは、映画音楽やオーケストラなどの3D Audio制作について、レコーディングスタジオやホールでの実際の収録例を紹介いただきました。また、中盤では、深田氏のアイデアで、実際に3D Auido録音のトライを「この場で行う」ということで、Sax 早川ふみ氏・Pf 藤井浩樹氏によるSaxDuoを録音し、すぐに7.1.4のスピーカーから再生するということを行いました。そして参加者はその録音を体感することで、「客席にいるリスナーではなく、演奏者と同じ音楽体験をできるように」や、「録音は正確性ではなく、空気感やダイナミックな躍動感などをより心理的、感覚的に訴えていくものでなければならない」という氏の考えを実際に感じることができました。  興味深いのは、深田氏と峯岸氏のイマーシブオーディオの考えの違い。今回の峯岸氏の講義では2chステレオをベースに3D Audioを構築していったのに対し、深田氏は収録から7.1.4chを意識して収録していきます。センタースピーカーやリアスピーカーの使い方が大きく異なり、深田氏の録音はリスナーが演奏者の間に座って聴いているようなこれまでに感じたことのない音場です。耳馴染み良く楽しい峯岸氏のミックス、まさに新しい体験を感じさせる深田氏の録音、どちらも新しい音楽の体験でとても魅力あるものです。同時に、業界最先端のお二人でも3D Audioの在り方に対する考えがさまざまあることがわかり、「音楽をリスナーに伝え、さらに新しい体験を生む」という音響表現の最前線に触れたように感じられました。  講義の後は、学生作品の講評会です。4年生 武藤夢歩さんによるピアノの録音「スクリャービン24の前奏曲(7.1.4)」、神谷世那さんの録音「ベースノイズ(環境音)の3D Audio録音手法」、本学ライブ配信チームが収録し、古田晏悠さんがミックスを担当した、名古屋芸術大学フィルハーモニー管弦楽団 第12回定期演奏会 ヘンデル/デッティンゲン・テ・デウム ニ長調 HWV.283の「オーケストラ 7.1.4ハイトマイク(HL-HR)の方式の比較」の3作品を試聴、講評を行いました。3作品とも、2chステレオとの違い、セッティングの違い、マイクの違いを比較して聴きくらべできるようになっており、実験的要素がある作品です。両講師からは、制作者としての感想と実践的なアドバイスがありました。テーマの選定と録音した内容に、両講師から感心する言葉が聞かれ、また、同じ制作者として立場からの発言もあり、和やかな講評会となりました。  講座は時間を延長して行われ、終了後にも講師陣に質問する学生も多く、実りあるものとなりました。

2023.11.22

テキスタイルデザインコース卒業生主宰の若手のテキスタイルデザイナーが発信する展示会「NINOW」、一宮「BISHU FES.」にて開催

テキスタイルデザインコース卒業生主宰の若手のテキスタイルデザイナーが発信する展示会「NINOW」、一宮「BISHU FES.」にて開催  2023年11月11日(土)、12日(日)の2日間、一宮市で開催された毛織物の魅力をPRするイベント「BISHU FES.」にて、テキスタイルデザインコース卒業生の小島日和(こじまひより)さんが主催する展示会「NINOW」を開催、尾州で活動する若手のテキスタイルデザイナーの作品を展示・販売、トークショーを行いました。テキスタイルデザイナコース学生と卒業生も参加し、繊維業界関係者との交流を深めました。  「NINOW」は、小島さんが2017年にはじめ、高齢化が進む繊維産地の技術や知恵を受け継ぎ活性化しようと、産地で活動する若手のテキスタイルデザイナーが自ら発信する展示会です。これまで東京で6度開催され、今回、一宮の「BISHU FES.」にあわせ、一宮市の協力でオリナス一宮にて開催されました。  参加作家は、ササキセルム株式会社 酒匂美奈さん、国島株式会社 森遥香さん、日の出紡織株式会社 横田和磨さん、中伝毛織株式会社 吉野陽菜さんと、そして自身のブランドterihaeruの小島さんと、企業の枠組みを超えて5名のデザイナーの作品が展示されました。  12日の午後には、トークショーが開催され本学テキスタイルコースの学生、卒業生、業界関係者が多数集まりました。  トークショーでは小島さんがファシリテーターを務めデザイナーがそれぞれ映像とともに作品を紹介し、どうやって尾州を知り働くようになったか、実際に働くようになってどう感じるかなど、現在働いている若手の生の声を伝えました。尾州を知ったきっかけでは、実際に生地に触れて感動したことやウールに限らず綿やリネンなどさまざまな素材を織っていることなど、それぞれが感じている魅力が語られました。働いていて感じることは、高齢化の問題や産地が縮小している現状の問題が上げられましたが、ポジティブな意見として会社の枠を超えて横のつながりが深く、そのことが嬉しいといった声も聞かれました。  質疑応答では、アパレル業界全体に対する厳しい意見や具体的に低賃金の話題が出るなど白熱したものになりました。小島さんは、こうした問題も含め産地の現状と製品の魅力を若手が発信を続けていくことに意義があるとまとめ、販売を手がけているという来場者からも応援していきたいとの言葉が聞かれました。  来年4月から尾州で働くことが決まったテキスタイルコース 4年生にトークショーの感想を伺うと、佐藤陽里(さとうひより)さん(宮田毛織工業株式会社に就職)「若手でも作ったものが全国に広がっています、早い段階でそういった業務に携わることができることに魅力を感じています」、石橋実祐(いしばしみゆ)さん(カワボウ繊維株式会社に就職)「就職が決まってから業界紙の繊研新聞を送っていただいて読んでいますが、実際に生地を見たりお話を聞けたことが本当に良かったです」、中西桃子(なかにしももこ)さん(伴染工株式会社に就職)「私が入る会社は新卒を採るのが初めてで会社からも同世代の従業員がいないことを心配されたり尾州自体若い子が少ないことを不安に思っていました。でも、この場所では若い人も多くこうした機会もたくさんありそうで、すごく安心しました」と、それぞれに将来への希望と抱負を語ってくれました。  トークショーが終わった会場では、扇千花教授を中心に、テキスタイルコースの学生、尾州で働く卒業生、また、業界関係者が集まり交流が図られました。企業からの若手を望む声とともに、小島さんからの「悩むようなことがあったらいつでも相談して!」と心強い言葉が印象的でした。尾州産地を盛り上げたいという気持ちの伝わるイベントとなりました。

2023.10.18

特別客員教授ヒグチアイ氏特別講座 学生のアレンジ、演奏で新曲「この退屈な日々を」レコーディング

特別客員教授ヒグチアイ氏特別講座 学生のアレンジ、演奏で新曲「この退屈な日々を」レコーディング  2023年9月28日(木)、東キャンパス2号館にて特別客員教授 ヒグチアイ氏による特別講座「やりたいことと得意なことのどちらを仕事にするのか~実践~」を行いました。  今回の講座は、2023年6月に行われた講座の最後で発表された新曲「この退屈な日々を」を、学生のアレンジ、演奏でレコーディングするものです。プロの現場を学内で再現、学生が自由に見られるようにするもので、文字通り実践的な内容となりました。  「この退屈な日々を」は、2023年10月劇場公開の映画『女子大小路の名探偵』に主題歌として書き下ろされた作品。あらかじめ録音されているデモ版のヴォーカルトラックを生かし、演奏部分を新たに録音、置き換えていく作業となります。  アレンジを担当したのは、音楽総合コース 4年 首藤蒼門さん。「やりたいことを思いきりやってみました」と語るとおり、パートによってはかなり複雑なアレンジとなっています。演奏は、ピアノ 3年 棚澤実尋さん、ドラム 3年 清水碧斗さん、ベース 4年 パクジファンさん、ギター 3年 カクさん、パーカッション(コンガ) 2年 関谷百加さん、コーラス 2年 天音さん、ストリングス 2年 村瀬芽吹さん、2年 齋藤麻生さんと、プロフェッショナルアーティストコース、弦管打コース、ポップス・ロック&パフォーマンスコース、サウンドメディア・コンポジションコースの学生らによる編成で、音楽領域の総力をあげての取り組みとなりました。録音は、サウンドメディアの学生が行います。ピアノは大アンサンブル室、その他の楽器はレコーディングスタジオ、コンソール室は見学の学生も出入り自由とし、ヒグチアイ先生と演奏者とのやりとりも見られるようにしました。さらに、各レコーディングブースとコンソール室とやりとりの映像も2号館ホワイエに大型スクリーンを用意し、多くの学生が見られるように設置されました。これらは、サウンドメディアコースの学生らが設置、ふだんから演奏会の配信を行っている経験が生かされました。  レコーディングは、デモ版のヴォーカルに合わせ、まずはピアノ、ドラム、ベース、ギター、パーカッションを録っていきます。一斉に演奏して録りますが、もともとのデモ版とごくわずかなズレがあり、グルーヴ感がもうひとつ。クリック音よりも一緒に演奏しているドラムの音やヴォーカルに合わせる指示が入り、録り直していきます。何度か試すうち、心地良いグルーヴ感が生まれてきました。ここからは、楽器それぞれでやり直したい部分だけを演奏し、差し替える方法で修正していきます(パンチインレコーディング)。コンソール室と演奏者で合意できたところでOKテイクとなります。このやりとりが、実際のレコーディングと同じもので、プロの現場を見るような臨場感でした。  演奏に参加したドラム担当の清水さんは「自分にとって2度目のレコーディングがヒグチさんの楽曲で緊張しました。スネアの音にはこだわりを持って演奏しています。ぜひ、聞いて下さい」とコメント。ベースのパクさんは「アレンジが複雑でフレーズが難しかったけど、アレンジの意図をいかせるように演奏しました」、ピアノの棚澤さん「みんなに迷惑をかけないようにと緊張しました」と、良い緊張感を持ちつつ楽しく演奏できたようで、それぞれが充実した笑顔を見せてくれました。  基本の楽器がOKとなり、続いてストリングスとコーラスをレコーディング。同じように全体を録音して、修正部分をパンチインする形で収録しました。  最後のパートは、スタジオに入りきれる人数が集まってクラッピングを録音。皆、大はしゃぎでレコーディングは終了となりました。  3時間あまりと、こうしたレコーディングとしては異例の短時間での収録となりましたが、無事に形にすることができました。演奏した学生ら、また、スタッフとしてのサウンドメディアコースの学生らの集中力が功を奏しました。  最後に、完成した曲を皆で聴きました。ヒグチ先生からは「『やりたいことと得意なことのどちらを仕事にするのか』ということで、2回の講義を行いましたが、好きなことや自分の得意なことに対して柔軟な気持ちでいることが大切。環境が変わっていき、音楽が好きでないかもと考えてしまったりすることもあります。私自身、人に喜ばれることや、人から必要とされることに喜びを感じ、現在も音楽にかかわっています。自分に似合うことを見つけ、自分のやり方を探しながらやっていって欲しいです」と言葉をいただきました。  今回、収録された作品「この退屈な日々を」名古屋芸術大学バージョンは、「未決定ですが、配信など何らかの形で聴けるようにします」とのことで、決まり次第お伝えします。

2023.7.18

特別客員教授ヒグチアイ氏特別講座『やりたいことと得意なことのどちらを仕事にするのか』を開催

特別客員教授ヒグチアイ氏特別講座『やりたいことと得意なことのどちらを仕事にするのか』を開催  2023年6月29日(木)、本学東キャンパス2号館大アンサンブル室にて、ヒグチアイ氏による特別講座『やりたいことと得意なことのどちらを仕事にするのか』を開催しました。  本年度、音楽領域の特別客員教授に就任したシンガーソングライターのヒグチアイ氏は、2歳のころからクラシックピアノを習い、その後ヴァイオリン・合唱・声楽・ドラム・ギターなどを経験、様々な音楽に触れ、圧倒的な説得力を持って迫るアルトヴォイスとピアノの旋律、本質的な音楽性の高さが業界内外から高い評価を受け、大型フェスへの出演も果たしています。そして2022年、TVアニメ「進撃の巨人」エンディング曲として書き下ろした『悪魔の子』が大きな反響を呼びました。  特別講座では、最初に「ドームライブ5万人が感動するような合唱」というテーマが与えられ、全員で合唱することとなりました。  「なぜ合唱させるのか?」は後ほど語られることとなりますが、参加者をソプラノ、アルト、テナーに分け、ピアノ、指揮も参加者から募り、各パートに分かれての練習の後、まず1度目の合唱。映像を確認した後、「さらに5万人足して10万人を感動させられるか考えながら練習してほしい」というリクエストで、再度全員が話し合います。  この話し合いの最中、ヒグチアイ氏は各パートの練習スペースを回り『どのように学生が考え取り組んでいるか』をチェックします。  そして2度目の合唱を終え「1度目より断然良くなったと思いませんか。話し合いの際、出る言葉をはっきり言ってみようとか、 子音を強く出してみようとか、同じような意見だったというのがすごく印象的でした。」というコメントをいただきました。  そして、この合唱を踏まえ『合唱して、どういう気持ちになったのか』を、感情をマップ化したものに当てはめる作業を3人一組になってディスカッションします。  その結果を発表後、「合唱した理由」や「感情をマップ化した理由」について、  「一通りやり終わったな、という後に何をするかというのがすごく大事。そこまで行ったら大体90点ぐらい。でも、そこから10点上げるにはどうしたらいいのか、やることがなくなったところから何をしたらいいのかということに、すごく意味があるような気がします。自分がその場でできることを探していくことを皆さんにやってもらいたくて、合唱してもらいました 」と語りました。  そして、ヒグチアイ氏自身の話へと続きます。  「音楽というものをすごくやりたい人間でした。けれど、 SNSで否定的な意見を言われることがあり、人前に出るのは好きじゃないかもしれないと思うようになりました。だけど、何かやりたい。じゃあ、まず自分がやりたいことって何なんだろうと考えた時に、自分の感情に言葉をつけたい人間だったんだなということに気づきました」。  そんな経験から『やりたくない』と思ったときに考えたこと、その考えを今回の合唱への取り組みに繋げて、  「どうしたらやりたくなるかと思った時に、 今までは完璧な音楽を届けなければいけないと思っていたけれど、そこにライブの楽しさを持ってくるのではなく、みんなの笑顔を見たいからやってみようとか、何か感情を持って帰ってもらえるんだろうと思えるようなライブ作りをしていこうと考えを変えていきました。だから今回の合唱を通して、どうせやらなければいけないのならば、どうしたら自分がやりたくなるんだろうというポイントを探してもらいたかったんです。そのポイントを探してくれた人たちに『やりたくない』にぶつかった時に、どうしたらいいのかという道が開けたのではないかなと思っています」と語りました。  そして、講座のテーマである『やりたいことと得意なことのどちらを仕事にするのか』について、挫折など自身のいろいろな経験を通して、  「自分の感情に言葉をつけたいということが自分のやりたいこと。自分の経験にあるものを全部組み合わせて、誰よりも最強になっていくというのが私のやり方。 やりたいこと、知っていることは、やったことの中にしかないんです。その経験を広げるという意味で、いろんなことを皆さんにやってもらいたいなと思っています。得意なことをやりたいことに寄せていく。やりたいことを得意なことに寄せていく。それをなるべく全部 1つにしたい。やりたいことも得意なことも両方欲しい。そういうふうになるべく自分を変えていくということをしていたので、やりたいことと得意なことのどちらを仕事にするのかというのは、やりたいことも得意なこともどちらも仕事にできる、していくというのが私の答えです」と締めくくりました。  そして自身の未発表曲のデモ版が披露され、学生にアレンジを依頼し、それをレコーディングしたいという、嬉しい提案がありました。こちらは後期の講演の課題となります。

2023.7.7

特別客員教授 宮川彬良氏の公開講座「クインテットの舞台裏」を開催

特別客員教授 宮川彬良氏の公開講座「クインテットの舞台裏」を開催  2023年6月22日(木)、特別客員教授 宮川彬良先生による特別公開講座「クインテットの舞台裏」を開催しました。「クインテット」はNHK教育テレビで放送された子供向けの音楽教養番組。2003年4月7日から2013年3月30日までの間、平日の午後5時50分から放送された10分間の番組で、多くの学生も子供の頃に親しんだ、学生の世代にとって思い出深い番組です。  今回の特別講義では、そのクインテットの制作のいきさつをお話しいただきました。講義は、先生方と学生(Tub. 水野はるかさん)によるテーマ曲“ゆうがたクインテット”の華やかな演奏で始まりました。  番組の構想は、放送が始まる1年前、2002年4月から始まったといいます。プロデューサー 近藤康弘氏(「おかあさんといっしょ」を担当、プロデューサーとして「ハッチポッチステーション」を制作、「クインテット」ではフリーのプロデューサーとしてかかわる)、脚本・構成を担当する放送作家 下山啓氏、そして宮川彬良氏の3人で8ヶ月もの間話し合いが行われ、どんな番組にするか、なにを伝える番組なのか、といった番組の骨子が決められたといいます。  このとき、ポイントとなったのが“世界観”。演奏する音楽や番組の構成など具体的な部分はすぐに思いつきますが、それよりもなぜ登場するキャラクターたちが演奏するのか、なぜその楽曲なのか、必然性がしっかりしていないと、番組そのもののクオリティに大きく影響することになり、その要となる“世界観”が必要だと説明します。「楽器を練習することは義務や命令ですることではなく、それこそが遊びであり、音楽そのものが遊ぶことである」ということを伝えたい、そのために自身も含め登場するキャラクターはすべて“精霊”だという案が出てきたといいます。そして、番組の中では語られませんでしたが5名のキャラクターはすでに亡くなっている設定で、生まれた町や年齢もばらばら、しかし、かつては音楽家やその卵であり自分の歌いたかった歌を歌い演奏する、全員、もう一度音楽を楽しみたいという共通の思いを持った魂、という世界観を作り上げます。そう決まると、あとはすべて人形のデザインも、一人一人のキャラクターも、番組の構成も、なにもかもがすんなり決まったと説明します。  重要なこととして、音楽に限らずすべての芸術は、人間の生命につながっているのでは、と宮川氏はいいます。「命は誰もが持っているもので、一番大事で、一番摩訶不思議で、そして一番エネルギッシュなもの。僕の持っている世界観はすべて命につながるものです」と述べ、今後、学生らもなにかを創作するときには参考にして欲しいと説明しました。  話を終えたあと、クインテットの1回分、10分間を全員で視聴し、番組のクオリティの高さと宮川氏の想いを再確認しました。最後の質疑応答では、さまざまな質問が挙がりました。遠く、長野から見に来られた方もおり、クインテットの思い出を語り合ったり、収録での苦労や番組内で使われた音楽についてなど、番組ファンとの交流会のような和やかな時間となりました。  音楽と、その裏側にある想いと、そしてユーモアにあふれる、素晴らしい講義となりました。 今回の講義で紹介された単行本「アキラさんは音楽を楽しむ天才」は、こちらでお求めいただけます〈Amazon販売ページ〉 「クインテット」NHKアーカイブ 「クインテット」DVD販売ページ〈NHKスクエア〉

2023.4.12

卒業制作展記念講演会 OSRIN氏「どんぐりのせいくらべ」

卒業制作展記念講演会 OSRIN氏「どんぐりのせいくらべ」  卒業制作展 50回記念講演会の最後は、本学ライフスタイルデザインコース卒業生でもある映像作家OSRIN氏。2023年2月26日(日)に「どんぐりのせいくらべ」と題し、卒業してから現在に至るまでクリエイターとして感じてきたことや映像制作の実際についてなど、さまざまな事柄についてお話しいただきました。  2013年卒業のOSRIN氏は、学生にとって年齢も近く身近な存在でありながらも、King GnuのMVなど一連の仕事は憧れの存在でもあります。会場となった体育館には多くの受講者が集まりました。  講演では、自己紹介から始まり、若い頃の感情・経験、今の思考までさまざまな話をして頂けました。  OSRIN氏の大学在学中は、ホストクラブでアルバイトしながらライフスタイルデザインコースで課題をこなしていたという異色の経歴。映像を作る専攻でないものの映像制作会社へ就職、ADとして映像制作現場の雑務をこなしつつ自分がやりたい仕事ってなんだろうと考えた3年間だといいます。2016年にPERIMETRONの作品をリリース、そこからの6年間で200案件を超える作品を制作。  この10年間を振り返ると「映像を作るコースでもなかったのに映像でメシを喰っていけるのか、いろいろなことが不安だった。誰々はどこどこへ就職したとか、どこそこへインターンへ行ったとか、誰々の給料はどれぐらいとか、聞きたくもない話ばかり気にしてしまい、複雑な思いでいた」といいます。今回の講演では、そうした気持ちを寓話にし紙芝居にして説明していただきました。  背をくらべるどんぐりたちと、それを見下すようにあざ笑う北風、さらに北風さえも包み込むような山、3者の視点の違いともいうべきお話です。「北風ってじつは自分のことで、数年前まで自分がそんな感じだったと思う」といい、他者と自分を比較することに嫌気が差し、くらべるという行為自体を見下すようになってしまっていたといいます。「見下すということは、その人たちと自分をくらべていることになってしまっていて、矛盾していると思うようになり反省した。くらべることは、人のことを肯定的に見たり、客観的に自分を愛せたり、そうしたこともできる」と比較することをポジティブに捉えることで、この10年間やってこられたと説明します。否定せずしっかりと捉え直すことが切磋琢磨を生み、より良いものを生み出すことにつながっていくと説明し、これから社会へ出る学生たちに、不安があっても生き抜いていって欲しいとエールを送りました。  このほか、King Gnu 「カメレオン」のMVのコンセプトや絵コンテなど具体的な映像制作の実際も紹介、作品の裏側にある思いなども紹介していただきました。  質疑応答ではたくさんの質問が挙がり、アイデアが出ないときにはどうしていますか、という問いには「自由に作って良い場合などテーマが広すぎると考えにくい。誰に伝えたいかターゲットを絞ることでアイデアも絞り込まれ考えやすい。誰に喜んでもらうかを考えること」と回答。参加した高校生からの、どういう気持ちで芸大に入って、どういう気持ちで卒業したかを教えて、という質問には「高校時代、進学するつもりはあまりなかったけど、拾ってもらえて入学、目標もなく過ごしていた。ただ漠然と友達と一緒に働きたいという気持ちがあった。手に入れたカメラで親友の誕生日の映像を作り、それを見て飛び跳ねて喜んでくれて、自分も泣いて、みんなで泣いたことが映像制作の始まり。映像って強すぎると感じた。大きな目標もないままだったけど、誰かのために映像を作って、あんな気持ちをもっと味わいたいというのが動機になっていると思う」と映像制作に携わるようになったきっかけなども紹介していただきました。  「誰かのためになることをどう見せるか、映像でもグラフィックでも紙芝居でも同じで、アウトプットが異なるだけ。それにこだわってやってきたことがこの10年だった」とまとめ、講演は終了となりました。

2023.4.1

卒業制作展 50回記念講演会 千住博氏「学生の皆さんに伝えたいこと/創造の現場より」を開催

卒業制作展 50回記念講演会 千住博氏「学生の皆さんに伝えたいこと/創造の現場より」を開催 ※講演部分は音声のみとなります。  卒業制作展 50回記念講演会第1弾として、2023年2月7日(火)日本芸術院会員である画家 千住博さんをお迎えし「学生の皆さんに伝えたいこと/創造の現場より」という演目でお話しいただきました。千住氏は、1995年創立100周年のベネチア・ビエンナーレで東洋人初の名誉賞を受賞、以降イサム・ノグチ賞、恩賜賞、日本芸術院賞など数々の賞に輝きます。作品はメトロポリタン美術館、ブルックリン美術館、シカゴ美術館をはじめ、国内外の主要美術館、薬師寺、出雲大社などに収蔵され、高野山金剛峯寺、大徳寺聚光院の障壁画も担当するなど、現代を代表する日本画家であり、現代アート作家でもあります。  講演のテーマとして、「類型のない作品を生むにはどうしたらいいか?」「コンテンポラリーアートとは何か?」「伝統と革新はどういう関係か?」「世界で活躍するにはどうしたらいいか?」「どうやったら個性は磨けるか?」、とこれらの命題を掲げ自身の経験とたくさんの映像を織り交ぜながら、考えをお話しいただきました。  アートについて深く考えるようになった転機として、2013年に制作された大徳寺聚光院の襖絵「滝」を挙げ、聚光院には国宝である狩野永徳の花鳥図があり、その隣に自分の襖絵が並べられることになったことについて「永徳と比較されたら敵うわけがない。歴史的にも最高峰であり、勝負にならない。伝統的な美術の世界でこそ求められてるのはコンテンポラリーアートではないか。類型にとらわれず、比較されない形で自分を展開する気持ちで制作しよう。自分が美術史のどの流れにある作家であるかを自覚しつつ、前例にない仕事をやっていこう」という考えに至ったといいます。  この命題を前置きに、旧石器時代のショーヴェの洞窟壁画にはじまり、中世、西洋絵画の父と呼ばれるジョット、ルネサンスのボッティチェリとミケランジェロ、続きダビンチと同時代の狩野永徳、さらに尾形光琳、浮世絵の北斎と広重、洋画に戻り印象派、その延長として現代アートのはじまりであるデュシャン、その流れからウォーホル、ラウシェンバーグ、そしてダン・フレイヴィンやウォルター・デ・マリア、アンゼルム・キーファー、ゲルハルト・リヒターといった現代の作家までの作品と背景をかけ足で説明します。  通常、解説される美術史の説明に加え、同じ作家としての立場からの視点と背景の考察がユニークで、非常に興味深い内容です。  旧石器時代の壁画からは「観察と記録」という絵画の機能にはじまり、「時間と空間」を意識していたと指摘、中世の絵画からは見えないものを見えるようにし始めたこと、さらにルネサンスや狩野永徳、印象派からは時代背景に対して社会の希求を見いだします。こうしたなかから芸術の役割として「ないものを指摘し、あるべき世界を示す」ということを挙げ、「美とはなにか?」という問いには「生きていて良かった、元気が出たと、生きるということに対して前向きになる気持ちを感じさせる働き」が美であり美的感動だと説明します。「美は生きることを肯定し応援する感性である」と結論付け、生きていくための本能であるといいます。優れた芸術の要件として「プロセスが見えること」を挙げ、絵画に限らずすべての領域の作品でプロセスが見えることが、芸術と工業製品を区別する要件の一つと説明します。「類型のない作品を生むにはどうしたらいいか?」という問いには、「地球上、また歴史上においても自分とまったく同じ人は絶対に存在しない。つまり、自分自身のすべてを画面に出せば、類型のないものが必ずできる」と説明し、その上で「美術史上のどの文脈の流れに中に自分が位置しているか、という自覚」が大切といい、それがないと美術史的に宙に浮いてしまうと説明しました。「類型のない作品を生むためには、過去を知ることが大切で、伝統は、常に類型のない新しいものの積み重ねである」と説きました。最前線で制作する作家として、現在考えていることを漏らさず伝えていただいたように感じました。  ものの見方と論理的な制作の思考は多くの示唆に富み、非常に有意義な講演となりました。